2. 旅行業界は利幅の薄い業界

 あなたが今度の休みに海外旅行に出かけたいと考えた時、やはりまず街の旅行代理店の店頭に並べられている様々なパッケージツアーのパンフレットを手にする事だろう。このいわゆるパッケージツアーというのは、不特定多数の一般からの募集を前提としている為、様々なトラブルを未然に防ぐ目的から、旅行業法によって大手の主催旅行企画会社(ホールセラーという)にしかその催行権を認めていない。このホールセラーというのが、JTBであり近畿日本ツーリストであり日本旅行などの、いわゆる大手旅行会社である。これらの旅行会社が開発した商品の説明書が、あなたが手にする「LOOK」や「ホリデー」や「MACH」などのブランドに分けられたパンフレットである。しかし、日本中には旅行代理店がそれこそ掃いて捨てる程存在し、こういった中小の旅行会社は、大手の商品を委託販売している一方で、自社独自のパッケージツアーも企画し販売している。これは別に違法行為なのではなくて、こういった中小の会社は大手のホールセラーと契約し、そこから主催旅行の催行権を買い取る形で自社ブランド商品を販売している。つまり、OEMによってベースとなる本体を提携企業から購入し、それに自社独自の味付けを施して自社ブランドで販売している商品だと思えば良い。又、大手のホールセラーにとってみれば、全国津々浦々にまで自社の支店や営業所を開設する事なく、地域に密着した小規模な地元の旅行代理店で自社商品も販売してもらえるメリットがある訳でもあるから、この両者の関係は基本的に良好である。ただ、詳しくは後述するが、旅行商品はただでさえ利益幅の薄い商品である為に、最近はこういった委託販売による手数料の支払いを嫌って、全国規模で自社によるパッケージツアーの通信販売も盛んに行われる様になってきた。よく新聞に全面広告で載っているので、ご覧になっている方もいらっしゃるであろう、あれである。自社の支店・営業所以外の提携代理店で販売された商品に関しては、会社によっても異なるが、そのツアー料金のだいたい8%程度がその提携代理店に支払われる。つまり、もしあなたが地元の提携代理店で大手が主催する40万円のヨーロッパツアーを申し込んだとしよう。すると、その提携代理店には委託販売手数料として3万2000円が支払われる事になる。それもすんなりと一度来店しただけで契約に至るケースはむしろ希で、だいたいはあーでもない、こーでもない、と、提携代理店の窓口の人間の手を煩わせる事になる。無論それ自体は悪い事ではない。何せ40万円もの商品を購入する訳だから、その商品について色々と説明を求めるのは顧客としては当然の権利である。しかし一般的に言って窓口に座っている店員は現地の情報に疎く、まして自社開発商品でないから、突っ込んだ話になるとどうしても開発元のホールセラーに確認しなければならない事項もある。従ってもしあなたが窓口に座ってから担当の店員を何時間も拘束し、電話確認をさせまくったとすると、もうその時点でその契約代理店は利益が出ないのである。利益が出ないからその会社は従業員を現地に送り込んで研修させる事も出来ず、結果として現地情報に疎い店員が対応する訳だから、いたずらに時間がかかってしまい、挙げ句の果てにはいい加減な情報しかお客に渡せない、こういった悪循環が生じているのが現状である。打てば響く様な店員が対応すれば、顧客満足度も上昇し、対顧客対応時間も短縮出来るので両者にとってメリットが生ずるのは改めて指摘するまでもないが、全体的に利益幅の薄い旅行業界だから人件費も低く抑えられ、結果として優秀な人材がどんどん流出して行く現状では、その様な理想に近づくのは無理な相談である。