筆者あとがき

 日本は素晴らしい国だと思う。他人を思いやるいたわり、痒い所に手が届くサービス、ほのぼのとした奥ゆかしさ、これらはもっともっと日本が世界に対してアピールしてもよい立派な文化であると思う。日本のマスコミ論調をみていると、「欧米諸国はかくかくしかじかである、それに引きかえ我が国は・・・・・」的な報道が多い。しかし実際日本という国は、政治を除けば、日本国民が思っている以上に素晴らしい国だ、という事が、外から見てみて筆者には良くわかった。

 もちろんこの世にエルドラドは存在しない訳だから、どこの国も大なり小なり問題は抱えている。こと日本に関して言えば、日本に欠けているのは本当の意味での国際性であると筆者は思う。「国際化」という言葉が叫ばれて久しいが、何を以て「国際化」と言うのか、この言葉自体が「ファジー語」であるだけに、定義が非常に難しい。仮にそれを「他国と自国の差異を認識する」事だと解釈したとすれば、相変わらず大多数の日本人は国際化していない、という事が様々なエピソードでご理解頂けたと思う。

 海外旅行というのは、この「日本人の国際化」にとって絶好のチャンスとなる事は紛れもない事実である。こう書くと「他国の本当の姿なんて何日かそこに滞在しただけでわかる筈がない」というお叱りを頂きそうだが、確かに筆者もその通りだと思う。しかし、全然見たこともないのと、例え短期の滞在でも現地に行った事があるのとでは、その人の認識程度には雲泥の差がつく事もまた間違いない。

 ヨーロッパにお越しになるお客様は、新婚旅行と学生ツアーを除けば、圧倒的に女性が多い。どうしてもヨーロッパ旅行となれば、十日間程度は必要である。現状の日本の社会で、会社を十日間も休む為には、辞職を覚悟しなければならない事も悲しい現実である。だから、学生や新婚旅行の若者以外で、三十代から五十代までの男性のお客様が異常に少ないのは残念である。そんな中、本当に貴重な時間を使ってわざわざヨーロッパへいらっしゃったお客様には、出来る限り快適で有意義な旅行をして頂きたいものだ、と筆者は常々考えていた。しかし、非常に偉そうな言い方をさせて頂ければ、筆者がいくら現地で立派な列車を仕立て上げても、その列車が走るレールがいい加減に敷設されていたのでは、その列車は転覆するのは目に見えている。くだらないトラブルにお客様を巻き込む事なく、お客様には旅行に専念して、様々な体験をして頂きたいと願っていたが、常にレールを気にしている車掌が乗客に満足に対応出来ない様に、筆者も振り返ると、予想を超えるトラブルの為に、自分が理想とするツアーとは程遠いツアーになってしまった事も多く、業界人としてお客様に対して申し訳ない事をしたと反省している。

 どんな職種、どんな業界でも少なからず問題を抱えている事も知っている。しかし旅行業界の場合は、その内部問題が不特定多数の一般人にまで被害を及ぼす事が多いので、あえて筆者は内部の恥を白日の下にさらけ出す事にしたのである。
 自分達では気づいていないが、旅行業界は日本人の国際化、ひいては日本の将来にとって重要な役割を担っている。あやふやな情報が氾濫する日本において、他の世界を見たいと思ったお客様が訪れて下さる旅行代理店には、せめて打てば響く様な本当の情報を持っていて欲しいものだと願って止まない。

 今後も出国者数は増え続ける事だろう。同じ人が二度三度と、海外旅行に行く時代になっていく事は疑う余地もない。こういった知識を持ち始めたお客様に的確に対応する為には、送り出す側にますます正確で新鮮な情報を把握する事が要求される。今こそ日本の旅行業界に携わる者全員は、自らの墓穴を掘る安売り競争から脱却して、必要な情報と的確なサービスを適正な価格で販売する事を目指し、お客様にも「いいものは高いのだ」という当たり前の理屈を啓蒙していく事に力を注ぐべきではないだろうか。