4. 航空券の値段

 言うまでもなく通常のパッケージツアーの場合は、飛行機のエコノミークラスを使用する。航空券の価格ほど一般人にわかりづらいシステムもないと思うが、非常に簡単に説明すると、大雑把に言って航空券の価格は9種類に分かれている。高い順からF1、F2、C1、C2、Y1、Y2、Y3、そしてADやFRといった種類がある。最後のADはエージェントディスカウントタリフ、FRはフリーチケット、つまり両方とも主に旅行代理店の人間だけに発行される特殊なものである為に、ここでは説明を省くが、F1はノーマルファースト、F2はディスカウントファースト、C1はノーマルビジネスクラス、C2はディスカウントビジネスクラス、Y1はノーマルエコノミー、Y2はディスカウントエコノミー、そしてY3がパッケージツアーで使用する団体割引料金である。つまり通常のパッケージツアーに使用される飛行機の座席の価格は、最も安い料金のクラスを使用している。航空会社だって座席単価の高いファーストやビジネスクラス、それにエコノミーにしたって1円でも高い料金を払ってくれる顧客を優先的に扱うのは当然の話で、従ってパッケージツアーに割り当てられる座席が確定するのは、こういった高い料金を払ってくれる一般の乗客の予約が、常識の範囲で一通り終了したと想定される時期から後となるのである。もちろん航空会社によっては違うシステムを採用している所もあり、料金体系もまちまちなので、これはあくまで一般論だという事をわきまえて読んで欲しい。
 余談になるが、読者諸氏は国内線の時刻表にはきちんと区間毎の航空券の料金が表示されているのに、国際線の時刻表には料金の説明が一切なされていないのをご存知であろう。この背景にはまたまた話せば長い物語が存在するので、説明は別の機会に譲るとして、こういった状況から、一般の方々は国際線の航空券の価格がわかっていらっしゃらない方が多い。そしてそういった方ほど、自分が乗って来た飛行機の座席に文句を言う方が多いのは、現場で接していて感じる事である。もちろん筆者だってエコノミークラスの窮屈さは良く知っている。特にヨーロッパ線の様な長距離線となると、狭い座席に押し込められたまま長時間身動きも出来ず、食事だけは頻繁に出されて何だかブロイラーみたいだな、と感じた方も多いのではないだろうか。現に航空会社の内部ではこのエコノミークラスの事を「ブロイラークラス」や「ホルツクラス」(ホルツと言うのはドイツ語で「木」という意味である。金や銀みたいに貴重価値はないのに、水を与えず放っておくとひび割れを起こして商品価値がなくなってしまう、儲けは薄いのに手が掛かるだけのもの、という意味)と呼んでいるのを筆者は知っている。しかし、そんな扱いを受けるのが嫌なら、ビジネスクラスやファーストクラスを利用すればいいのである。一般のパッケージツアーだって、追加料金さえ支払えば、飛行機の座席のクラス変更をする事は可能である。しかし文句を言う方に限って、上級クラスの座席の価格がいくらするのか、ご存知ない。試しにお近くの航空会社の営業所に電話して、今ヨーロッパ線(日本からヨーロッパのどこの都市へ行っても航空券の価格は同一である)のビジネスクラスやファーストクラスの往復の航空券の価格を問い合わせてみてはいかがだろうか。恐らくビジネスクラスであなたが申し込んだ旅行代金全体の一・五倍、ファーストなら三倍程度の値段を言われるだろう。これはあくまで往復の航空券の価格だけである。あなたが支払った旅行代金には、この航空券代金の他にホテル代やバス代、ガイド代、食事代、添乗員経費などが全て入っての価格である。いかに航空券の価格が安いものに抑えているかがお判りになるであろう。そんな安い切符で乗っている訳だから、狭いの何のと、文句を言うのは筋違いも甚だしい。嫌ならもっとお金を払えばいいのだ。資本主義の世の中、安くていいものなんて絶対に存在しないのだから。

 話がだいぶ横道にそれてしまったが、飛行機の座席を確保するのが容易でない背景はお判り頂けたと思う。実はここには別会社が存在し、航空会社から飛行機の座席を仕入れ、それをホールセラーに販売している会社もある。大手の旅行会社は独自に航空会社と年間契約を締結するが、中規模のホールセラーなどは、在庫がきかないものだけに事前に大量に仕入れる事が出来ない為に、こういった専門業者からその都度必要な座席を仕入れている。