● ● ● 第二章 バーチャルツアーで行くヨーロッパ ● ● ●


1. いざ出発

 さて、そうこうしている内に出発当日がやって来た。あなたはパスポートとスーツケースを持って指定された時間までに空港の指定場所に到着した。そこではこれから一緒に同行する添乗員と主催旅行会社の係員が待っていて、あなたを出迎えてくれるだろう。そして全員が揃った段階で簡単なブリーフィングが行われ、荷物を飛行機に預けて出国へと向かう。ここでも実は色々な別会社の人達がツアーを支えているのである。まず、これからあなたと同行する添乗員は普通、添乗員派遣会社に所属している人で、あなたが申し込んだホールセラーの社員ではない。この添乗業務だけで食べている人達の事をプロテン(プロの添乗員の意)と呼ぶが、通常のパッケージツアーには、こういった派遣会社のプロテンが同行する。又、あなたの荷物を飛行機に預けてくれる人はセンディング会社の社員で、これまたホールセラーの人間ではなく、もちろん航空会社の人間でもない。センディング会社というのは、ホールセラーと航空会社の双方を補完する業務を専門に行っている会社なのである。例えば、旅行中ずっとあなたの手に渡る事はないあなたの航空券が発券されるのは、実は早くても出発前日である。ゴールデンウイークやお盆の時期など、特に混み合う時期では前日の深夜に主催旅行代理店の基幹支店で発行される事もある。するとそれを出発までに間に合う様に空港に届け、添乗員に渡す作業を行っているのがセンディング会社である。
   又、個人で旅行すると飛行機に預ける荷物の重量(ヨーロッパ線では個数ではなく重量で規制される)をチェックインカウンターで計って、規定よりオーバーしている様なら追加料金(エクセスチャージと言う)を取られるが、団体旅行の場合にはこの重量検査はほとんど行われない。これはエコノミークラスの場合、一人二十キロまで無料で持ち込める事から、参加人数×二十キロの合計重量が予め航空会社のコンピュータに入力されている為である。従って預けた個数のチェックしか行われないので、航空会社もセンディング会社の社員に任せているのである。ちなみにツアー毎に設けられたチェックインカウンターの中にいるのも、航空会社の職員ではなく、このセンディング会社の社員である。
 さていよいよ出国審査も終わり、免税品のショッピングも終わって搭乗ゲートから飛行機に乗り込む。業界ではこの飛行機の機体の事を「シップ」と呼び、航空会社の事を「キャリア」と呼んでいる。通常シップにはL1と呼ばれる前方左側の出入口から搭乗する。しかしパッケージツアーの座席は前述の通りエコノミークラスでシップの後方に位置しているので、ビジネスクラスの広く快適そうな座席を横目に、狭い通路を一番後方まで移動して指定された自分の座席に着席する。やがて時間と共に離陸して、約十二時間に渡る長距離フライトがスタートする。目的地までの直行便なら十二時間で済むが、混み合う時期には直行便が取れない為に、ヨーロッパの別の都市で飛行機を乗り換えて、目的地入りする事もある。こうなると乗り換え時間も含めると十五〜十六時間もかかる事になる。これも安い料金で乗っているのだから仕方ないが、筆者の知る限り一番過酷だったのは、成田からロンドンへ行くのにニューヨークを経由した例がある。これではほとんど地球一周である。東京から大阪へ行くのに一度札幌に寄ってから行く様なもので、さすがにこれは滅多に起こる例ではないにしても、いくら安いとは言えあまりにもお客をバカにした例である。
 又話が横道にそれてしまったが、それでもまだ日系のキャリア(日本航空、全日空)を使用している場合は、いくらエコノミーとは言え機内のサービスはまずまずだし、機内食も基準点はクリアしているので、我慢も出来るが、ヨーロッパ系のキャリアを使用している場合は、一般に彼らにはサービスの概念がないので(この事に関しては後章にて詳しく)、日本人にとってはどうも馴染めない部分が残る。しかし着いてしまえばこっちのもの、飛行機なんてただの移動手段に過ぎないのだから、いつまでもウジウジ考えるのはよそう。