2. さて到着

 さて、あなたは目的のヨーロッパの地に立った。ここからあなたのツアーは「ツアーオペレーター」という別会社がハンドリングする事になる。あなたが申し込んだ大手のホールセラーが主催するパッケージツアーは、そのホールセラー会社が直接ホテルを予約したり、バスやガイドの手配を行っているのではない。これらの現地業務は全て「ツアーオペレーター」が委託代行して行っている。ツアーオペレーターは通常それぞれの国毎に事務所を開設し、担当する国内で必要とされるそのツアーに関するホテルやレストラン、バスやガイドの手配に関しての一切の業務を行っている。最近、大手のホールセラーの中には自分の会社の現地法人を設立し、その会社が自社ツアーを直接オペレートする「自社手配」も増えて来たが、まだまだ一握りに過ぎないし、自社手配による弊害(現地法人にとってのクライアントは親会社なので、どうしても独立系のツアーオペレーターに比べて甘えが出てしまい、トラブルにも迅速に対応しない、又、扱い本数が独立系のオペレーターに比べて少ないので、仕入れ単価が高くなってしまう、などなど)も目立ってきている。今現在ヨーロッパでは十社以上の日本のツアーオペレーターが活躍しているが、どこも繁忙期になるとヒイヒイ言いながら仕事をしている。同じ旅行業でもアジアやハワイと違い、ヨーロッパは季節による送客数に極端な違いがある。冬は暇で夏忙しいという典型的なキリギリス生活になってしまう訳だが、日本に比べ人件費の極端に高いヨーロッパでは、遊軍的な人材を雇っておく訳にもいかず、最大公約数的な人数しか配置されていない。しかも現地人従業員はどんなに忙しくても個人の生活を犠牲にしてまで仕事をしようとはしないので、オフィス内の日本人従業員にだけそのしわ寄せが行く事になる。その結果が手配クオリティーの低下に結びつく訳だが、この件に関しては言いたい事が山ほどあるので、後ほど詳しく後述する事にして、何はともあれ、あなたはこのツアーオペレーターの手配管轄内に入った訳だ。
 空港に到着すると、大抵はその空港に日本人の係員が出迎えに来ている筈だ。この人達をアシスタントと呼ぶ訳だが、何を隠そう筆者も長年フランクフルト空港でこの仕事を担当していた。フランクフルト空港の場合、旅行会社の人間には許可証が与えられるので、バゲージクレイムまで入れるが、他の空港の場合は大抵荷物を受け取り税関を出た所で待機している。このアシスタントの仕事はグループが乗って行くバスが間違いなく来ているかを確認し、グループのスーツケースをバスまで運ぶポーターの手配を行う事である。ヨーロッパの中では比較的時間に几帳面と言われるドイツでさえ、バスが来ない事も多く、大いにヒヤヒヤさせられたものである。であるから、筆者は知らないが、約束時間なんてあってもないようなラテン系の国々でこの仕事に携わっている人達は、さぞや神経をすり減らしている事だろう。その心中や察するに余りある。
 日本人は待たされる事を極端に嫌う民族である。筆者だって生粋の日本人だから、その性質は身体で理解出来る。だからこそ段取りをきっちりと決めて、お客を待たせない様に計算し尽くしてやっているのに、そんな事はお構いなしのポーターやドライバーを相手にしている訳だから、なかなか思い通りには行かない事も多い。ま、それはいいとして、いよいよバスは空港を出発し、今日の宿に向かう(直行便の場合、時差の関係でヨーロッパには同日の夕方に到着する)。通常は空港でのアシスタントがホテルまで同行し、車内で滞在に関する案内を行っている。